カテゴリー: ミステリ

  • 九マイルは遠すぎる

    アームチェア・ディテクティブの典型で、短篇集。
    ニッキィという推理が得意な文学教授が、わずかな手がかりから推論を重ねて事件を解決してしまう。
    タイトルの「九マイルは遠すぎる」は実際には「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない。ましてや雨の中となるとなおさらだ」という文章のこと。
    ニッキィはたったこれだけの文章から、
    ・話し手はうんざりしている(容易じゃないと言ってるから)
    ・雨を予想していなかった(ましてや雨の中となるとと言ってるから)
    ・話し手はスポーツマンや野外活動家ではない(9マイルを歩くのに音を上げているから)
    ・話し手が歩いたのは夜中か早朝(日中ならバスや電車があるから歩く必要はない)
    ・話し手は郊外から町に向かって歩いてきた(町から出るなら自分の車や交通機関を利用するはず)
    ・九マイルとは正確な数字(大雑把な距離を言うなら10とか切りの良い数字にするはず)
    ・はっきりとした目的地に向かっていた(9マイルという目的地までの正確な距離を把握しているから)
    ・一定時間内に到着しなければならなかった(雨宿りせずに歩き続けているから)
    などを推論する。
    この推論がとある事件を解決する重要な推理へとつながってしまう。
    ほかにも、雑誌の切り抜きで作った脅迫状、被害者の頭に残っていた凶器の跡、チェス盤の駒の配置など様々なことを推理し、事件を解決してしまう。
    わずかな手がかりから推論を重ねて事件を解決するまでの流れがとても鮮やか。
    元になった事件にも不自然な感じはない。
    全部で8話あるけど、最初のエピソードから合計20年かかって書いたらしい。
    つまり相当にプロットやディテールを練って作ったわけで、鮮やかで自然な読後感になるのも当然だと納得。
    いわゆる「本格推理」で、つまり「推理が主で登場人物やエピソードは従」というウェイトになっている。
    1話あたりは30ページくらいで、簡単に読める。
    推理を楽しみたいなら、うってつけ。
    思考力訓練のテキストにもなると思う。

    九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)

  • 黒死館殺人事件

    衒学的で読みづらいという評は知ってたけど、有名なミステリらしいので読んでみた。
    たしかに、ヨーロッパの絵画や美術品や稀覯本、宗教逸話とかの話題がすごく多い。
    ほぼ全部知らないので、正直言って読むのがうんざりだった。(^_^;)
    ググって調べようとしたけど、数が多くて面倒くさくってやめた。
    探偵役の「法水」は、それらの知識を真犯人を探す心理洞察の為に散りばめているけど、初見だとどれが伏線に相当するのかとても判断できない。
    会話内容から犯人の心理を見抜くっていう意味では、刑事コロンボに似てる。
    でもコロンボはわかりやすいのに対して、黒死館は知識が無いと言い間違えてるのかさっぱりわからない。
    実際の法水の推理は、何度も外れて二転三転する。
    完全に的外れではなく、ある程度は合ってるけど真相をズバリと見抜いたわけではなく、新事実発覚などで何度も推理しなおしてる。
    犯人をあぶり出すために意図的にウソをついて人を追い詰めるくだりもあるけど、正当な推理とまったく区別がつかない。後出しジャンケンで誤魔化してる?とも思えた。
    そういう怪しげな捜査方法なので、探偵役が実は犯人っていうパターンじゃないの?と疑いつつ読んでたけど、違った。
    真犯人は、あたかも誰かを庇って証言を控えてるような態度だし、法水も真犯人を見抜けずに同情的だったから、まさかこいつが真犯人だったの?と驚いた。
    最後まで読んでも、真犯人の犯行動機がさっぱりわからない。遺伝的な犯罪者ってことらしいけど。
    ただ、黒死館を作った算哲は犯罪者の遺伝性を否定する実験の為に館とその住人を住まわせたわけだけど、遺伝的犯罪者が真犯人だったことで算哲の考えは間違っていたことになる、という皮肉なオチは面白い。
    物語の筋だけなら、犯人候補が変わっていくどんでん返しは面白い。
    でもそれは、多種多様な「教養」に紛れているので、初見では筋を追うのだけでも大変だった。
    ドグラ・マグラに並ぶ日本三大奇書って評価らしいけど、衒学的で読みづらいミステリって感じなだけで、奇書ってほどでは無いと思う。
    黒死館殺人事件 (河出文庫)

  • 虚無への供物ネタバレ感想

    中井英夫っていう、自分は聞いたこと無い作家の小説を読んでみた。 (さらに…)

  • 夏と冬の奏鳴曲ネタバレ感想

    孤島&館物ミステリと聞いて読んでみた。
    孤島に閉じ込められた8日間に、次々に殺人が起きるってやつ。
    謎の7人目がいると疑心を抱く、みたいなありがちなもの。
    最後まで読んでも、謎の解明は無いので煮え切らない。
    夏と冬の奏鳴曲(ソナタ) (講談社文庫)

    終盤までは、尚美と和音との二重人格ネタかと思っていたな。
    あと桐璃も二重人格かと思っていた。
    犯人の動機が不可解すぎ。
    キュビズムを援用してるけど、意味不明。
    理論的な説明は理解不能なので読み飛ばした。
    終盤までは退屈だった。
    最後まで読んでも、主人公の半生と20年前の映画とが極めて似ている理由がわからない。
    文章はコピペで、まったく同じだし。
    素直に読むなら、主人公は映画を現実化するために、犯人側に利用された?
    そんなことが可能なの?と思ってしまう。
    これも神父が言う奇跡?
    事実上の密室殺人が、単に未知の自然現象で偶然起きていただけってのは「えええ???」と唖然となった。
    こんなの読めないよ、と。
    つまりトリックは無かった。
    結局は、謎の7人目はいなかったとなるけど、そのあとで殺人とは関係ないけど実は7人目はいたと判明するどんでん返しは何の意味があるのかよくわからない。
    あと、桐璃は普通に考えて双子?
    最後に登場した目が無事なほうが、主人公と桐璃しか知らないことを言い出すのは、裏で2人の桐璃が情報交換すればいいだけなので、どっちが「本物」かはわからない。
    ただ桐璃が主人公を呼ぶとき「うゆー」「うゆう」と分けているのが、その手がかりらしい。
    てっきり「可愛さ」アピールで平仮名書きかと思ってた。
    入島から、黒ドレス桐璃が晩餐に登場し、主人公と会話するまでが「うゆー」。
    その20分後に再び主人公の部屋に来た桐璃「うゆう」。
    主人公と初対面の桐璃を回想「うゆー」
    山に行きたがる桐璃~山から帰ってきた桐璃「うゆー」
    村沢夫妻を立ち聞きする主人公を脅かす桐璃~鈴をプレゼント「うゆう
    8月7日冒頭~武藤の部屋を捜索まで「うゆー」
    昼寝直後「うゆう」
    ウォークマンを聞いていた桐璃「うゆー」
    風邪で寝込んでいたとき、雑誌社のバイトを勧める回想の桐璃「うゆー」
    8月8日朝~武藤の部屋さがし「うゆー」
    足跡のない雪のトリックと二重人格のことを話す桐璃「うゆう
    8月9日~ブレーカーのトリックを話す桐璃「うゆー」
    死んだふりを勧める桐璃「うゆう
    9月10日朝、アイスソーダを飲む桐璃「うゆー」
    映画を見るように勧める桐璃「うゆう
    左目を抉られた桐璃「うゆー」
    テラスに登場した桐璃「うゆう
    島に来る前の桐璃はすべて「うゆー」。
    この「うゆー」桐璃が雑誌社を薦めている。
    主人公が雑誌社に勤めることで、映画の内容と主人公の人生が一致し続けている。
    そして船上での会話も映画と一緒。
    よって、「うゆー」桐璃もグルなはず。
    主人公は「うゆー」桐璃を助けて、一緒に脱出しようとするけど‥。
    主人公が、左目を失った桐璃の左目が無いことに突然否定的にコダワリ出すのは謎すぎる。
    しかしそれでも、左目が無いほうの桐璃を「本物」認定して、連れて脱出しようとするし。
    でも、エピローグでは左目が無い桐璃は瓦礫の下敷きとなったとされ、代わりに目があるほう、一度は否定したほうの桐璃が主人公と一緒にいる。
    この心変わりがよくわからない。
    エピローグで、主人公に孤島行きを命じた雑誌編集長の名前が「和~」だったのは、編集長が真の黒幕ってことなんだろうか。
    雑誌社を斡旋したのは桐璃なので、編集長と関係あるはず。
    ただ、編集長の動機がわからない。
    島の面子は桐璃を見て驚いてたのだから、桐璃の存在をしらない。
    映画の内容を実現すべく、主人公同様に彼らも編集長に利用されたのでは?
    「うゆー」桐璃の左目が抉られることも、編集長の計算のうちだったのだろうか?
    2人の桐璃が帰ってくるのが、当初の予定だったんだろうか?
    「うゆー」桐璃が死んだのは、瓦礫の下敷き=事故と思わせる記述だけど、はっきりしない。
    桐璃が2人いると何かマズイんだろうか?
    それで主人公と「うゆう」桐璃が、「うゆー」桐璃を殺したんだろうか?

  • 殺人の門

    東野圭吾の長編「殺人の門」を読了。
    正直、こんな長編の必要があったのかなと。
    ただ、人を騙して金を取る悪徳業者の描写が巧みで、最後まで読んでしまった。
    いかにもありそうな話で。
    自分のように「悪徳業者の描写が面白くて読んだ」みたいな物語以外の興味が無いと、途中で読むのを諦めたくなると思う。

    殺人の門 (角川文庫)

    主人公は一家離散した元金持ち。
    終盤になるまで、主人公の半生を私小説風に描写してずっと続く。
    主人公は小学校時代から「友人」に利用されつつも、その弁明を聞いているとなぜか言いくるめられて許してしまう。
    主人公は小学校の時分から大人になるまでずっと、自分を騙した友人を殺してやろうと決意しつつも、実行しない。
    主人公の優柔不断さで、こいつバカじゃねえの?と思ってしまう。
    こんなやつとはきっぱり縁切りすりゃいいだろうに、とか。
    まあ、それを言ったら物語にならないけど。
    なぜ優柔不断になってしまうかが、物語の肝ではある。
    最後の最後で、「友人」がなぜ主人公との関係を持ちたがり、主人公を親友のように思っているようで便宜を図りつつも主人公を不幸に陥れるのか、その動機が判明してやっと主人公は友人を殺す。
    しかもそれは、主人公が一家離散したことからすでに始まっていたことも判明する。
    最後まで読んでやっと、「友人」の今までの振る舞いの意味が理解できる。
    ミステリは色んな意味の「謎」があるけど、殺人の門は「友人の動機」を読者が解くべき謎としている小説だった。
    自分は全然わからなかった。
    自分は主人公の私小説のように読んでて、その友人を脇役のように思っていた。
    実際は、友人のほうが主役でその動機が主題だった。
    これを読者に気づかせないようにするために、主人公が半生を語る私小説風に書いたんだと思う。

  • 火刑法廷

    火刑法廷は、
    ミステリ界で有名なジョンディクスン・カーの代表作のひとつ。
    オカルト仕立てのミステリー。
    ある人物が病死して、のちに毒殺の疑いがかかる。
    墓を暴いて死体を確かめようとすると、
    その死体が消えていた。
    その死の直前に、
    幽霊のような謎の女が目撃されていたことがわかり、
    毒殺容疑者として、
    死んだ人物の甥の妻
    主人公の妻
    の2人が上がる。
    最大の特徴は、
    一度は探偵役が事件を解決するものの、
    真犯人は別人ではないか?
    と疑わせるエピローグになること。
    現代のミステリではありがちな手法ですが、
    これはカーが先駆・元祖だとか。
    ホラーとしての評価もあるけど、
    個人的にはホラーとはとても言えないと思いますね。
    オカルトではありますが。

  • どちらかが彼女を殺した

    妹を殺された警察官が、
    現場を証拠隠滅して自殺のように見せかける。
    それは独自に犯人を突き止めて、
    私刑を与える為だった。
    刑事には嘘をついて自殺のように見せかけつつ、
    自分は真相を突き止めようとする。
    そんな主人公を疑う刑事。
    最後まで読んでも犯人ははっきり書いてませんが、
    ちゃんと推理できる情報は揃っています。

    このことで発表当時は批判がたくさん起こり、
    文庫版に解説がつくことになったそうです。
    ただ、文庫版は逆に真犯人のヒントとなる言葉が削除され、
    推理の難易度が上がってます。