昨日書いた池内恵氏の新書のKindle版が発売されたので、購入した。
感想は後日。
イスラム国(ISISやISILとも)成立の経緯をイラク戦争あたりから掘り下げて解説してる。
かなり詳細に感じたけど、これでも新書向けに端折ってるんだろうね。
いったんはアメリカの「増派」でテロ組織が追い詰められて衰退していたものの、
「アラブの春」のせいで息を吹き返したらしい。
イラクではシーア派がスンナ派を弾圧してスンナ派が多い北西地域では、
シーア派のイラク政権よりはスンナ派のイスラム国を歓迎する風潮があるらしい。
またイスラム教の重要概念のカリフの意味も面白かった。
イスラム原理主義組織の名称の宗教的意味とかも。
イスラム国の機関紙「ダービク」も宗教的な意味があるらしい。
イスラム国の指導者は「カリフ(イスラム教の指導者)」を主張し、
自身がムハンマドの血筋だと主張してる。
これは正当(正統)なカリフの条件とのこと。
カリフの必要性自体はイスラム圏の共通認識だそうで、イスラム国はこの認識を踏まえてる。
ただし他のイスラム教徒はイスラム国のカリフは認めてない。
連中のことは、ただの残虐なテロリストでは説明がつかないみたいで、
自分達がムハンマドの予言と同じことをしていると、
宗教的な意味のあることをやっていると、
巧妙に計算してイスラム圏に訴えているそうな。
その主張に共感し、各国から戦闘員が集まっているけど、
連中は傭兵ではなく、宗教的主張に賛同する志願兵(殉教者?)と見るべきとも。
シャリーア(イスラム法)は(神定法なので)、近代の人定法を超越すると、
イスラム教徒全体は考えているらしい。
イスラム国はこのシャリーアを踏まえて自分達の行動
(斬首やテロ、ヤジディ教の少女を売ったり犯したりすること)を正当化している。
なら、イスラム教徒がイスラム国を根本的に否定するのは不可能じゃないかな。
可能なのは、例えばカリフがコーランの記述を「間違った伝承だった」と主張して削除し、
新しいコーランを編纂することくらいかと。
でもイスラム国のカリフはそんな主張は全くしてないわけで。
分散型組織=テロのフランチャイズのようなものとか、
理念に共感した「ローンウルフ(一匹狼)」にテロをやらせるとかは、
「なぜ空爆が効かないのか」と同じ話だった。
ただ分散組織説に反対する専門家もいるそうで。
実態はどちらも正しいんじゃないかな。
既存の組織にプラス、フランチャイズと一匹狼型もって感じだろうと。
この組織分散に伴って、イスラム圏のテロリストの指導者が欧州に逃げたそうな。
連中は何らかの方法で(結婚などで?)現地の市民権を得る。
人道や人権から市民権のある過激派を処罰できない。
過激派は具体的にテロを指示するのではなく、単に理念や理想を語るだけなので、
信仰の自由の枠内となり、取り締まり不可能。
欧州ではすでにナチズムは法で禁止されてるんだけど、
イスラム原理主義はコーランを巧みに引用しているので規制できないのだろうね。
結婚などで国籍を得るということは、
日本にももう過激派が潜伏してるんじゃないかなあ。
最近話題になった「クソコラ」について、
イスラム国のテロリストが「我々はどこにでもいる」とツイートしてたけど、
決して口先だけの脅しではないのかもしれない。
興味深いのは、アフガニスタンの米軍基地が自爆テロを受けて
CIAのアルカーイダ専門家が死んでるという話。
これは内通者が基地に入り込んでいたのが原因。
この自爆テロ以降、アメリカは2009年頃から撤退を模索していたとのこと。
ということはイラクからの撤退は別にオバマ政権の成果では無いわけだ。
共和党政権でもどのみち撤退してただろうね。
民主党はあたかもオバマが共和党の過ちを糺してイラクから撤退したかのようにアピールしていたけど。
アメリカがイラクから「敗退」したということになると、メンツが潰れていただろうし、
米軍にとってオバマの「チェンジ」政策は体の良い撤退を演出する上で好都合だったのだろうね。
人質動画の演出の意味の話も面白かった。
国際世論向けの人質動画では、わざわざ人質に発言させ、その人質の素性を言わせる。
一方、ヤジディ教など異教徒やシーア派の殺害では顔を映さないようにし、
銃殺などであっさり殺すという使い分けをしている。
顔を映さなければ、その被害者に感情移入しにくいものね。
ちなみに10年位前のイラクの香田証生とかの首切り動画は
イスラム国の前身のテロ組織がやったことだそうで、
イスラム国って最近登場したわけではなく、10年前からずっと活動してたわけだ。
人質殺害映像の様式(オレンジ色の主人服。囚人がメッセージを読み上げて処刑人が何かを要求する。それが受け入れられないと斬首)は、
元々イスラム国の前身組織のアイディアだったらしい。
そして他の組織も真似するようになったそうな。
ただしイスラム国のロゴ入りの「正式動画」については斬首シーンはカットされている。
これもメディア戦略(口コミ)の一貫らしい。
斬首シーン直前と直後のみを編集することで、
動画のことを他人と話しやすくするという意図があるんだとか。
あと戦闘シーンの動画を勇ましく編集して宣伝したり。
改めて思うに、欧米諸国の軍隊の戦闘シーンをカッコよく演出した動画って、あまり見たことないね。
せいぜい航空ショーくらいかな。これは戦闘シーンではないし。
いい年した大人は別に惹かれないだろうけど、
今は子どももインターネットを普通に使ってるわけで、
子どもが見たらどう思うかはわからないね。
それとイスラム教を反近代、反欧米のマジックワードのように盲信している知識人の話もあった。
具体的な人名は無いけど、内田樹とかかな。
カテゴリー: 宗教
-
イスラーム国の衝撃の感想
-
「イスラム国」の正体 なぜ、空爆が効かないのか
今話題の「イスラム国」について、何か書籍が無いかと探してみた。
この本には「池内恵」というイスラム教(中東)について詳しい東大准教授の解説が載ってる。
この人のブログは前から読んでいたのだけど。
中東・イスラーム学の風姿花伝
「イスラーム国」の衝撃という新書が発売されたそうで、読もうと思ったらKindle版の発売が28日。
本なんて読めればいいのでKindle版が欲しい。
そこでKindle版発売の前に、代わりにこれを読んどこうと。
「セレクション」(記事の寄せ集め)なので200円だしね。

「イスラム国」の正体 なぜ、空爆が効かないのか Wedgeセレクション No.37
で、池内恵氏の文章だけ読んだ。
イスラム国とは集権されてない分散型の組織だそうで、要はアルカーイダと同じ。
ネットでクラッキングをやってるアノニマスとかも同じ。
つまり理念に共感する者なら誰もが自由に「アノニマス」を名乗っていいのと同じく、
イスラム国の理念に共感する者なら誰もが自由に「イスラム国」を名乗ってOKなわけ。
地元で育った孤独な若者をジハードに共感させて、
世界中の地域で小規模なテロ(一匹狼型のテロ)を散発的に起こさせてる。
これはこの前、フランスで起きたトルコ人兄弟のテロがまさに当てはまるかと。
このようなテロを繰り返すと、そのうち当地の権力が弱体化して「空白地帯」ができる。
そこに世界中から「イスラム戦士」が集まって国を作るという目的で、
これは既に2004年から計画されていたそうな。
計画したのはザルカーウィという人物で、2006年にはアメリカに殺されてる。
でもこのイスラム国は、アルカーイダから「イスラムの団結を乱す」と批判されてたんだとか。
またザルカーウィ死後の後継組織も、アメリカの増派(増兵?)で弱体化していた。
しかし「アラブの春」をきっかけに勢力を取り戻したんだと。
それで今日のイスラム国の台頭になってるわけ。
イスラム国に空爆を繰り返しているらしいけど、
イスラム国は分散型組織なので、特定の指導者や権力者がいない。
だから空爆は無意味だと。
素人考えでは、民間人の居住地域に潜伏しているらしいから、
居住地域丸ごと空爆するわけにはいかず、
だから空爆は無意味なのかなと想像していた。
郊外や国境に来れば空爆で追い払えるのだろうけど、対処療法的で根治しないだろうし。
本気でイスラム国を崩壊させるには、地上戦しかないんじゃないかな。
でも地上戦は両者に人死のリスクがあるからねえ。
圧倒的な地上兵器とかは無いだろうし。
イスラム国側も最新兵器を入手しているらしいし。
そんなリスクはどこの国も背負いたくないよね。
ついでに高岡豊という中東調査会上席研究員の記事も読んでみた。
イスラム国の増大化は、シリアのアサド政権妥当の為に
「反政府組織」に資金や武器を提供したことが原因らしい。
これはアメリカを含めて、周辺国がやっていたそうな。
初期にはNGOや政治家も率先して行っていたほど。
この反政府組織がイスラム国と合体したみたい。
それと、今でも個人レベルの資金提供はあるらしい。
で、アラブの春で釈放された政治犯の中に過激派がいたようで、
その連中がイスラム国に合流したとのこと。
国連安保理では、イスラム国などに参加しようとする人員の移動を阻止する
立法を義務付ける安保理決議が、9月25日に採択されてるんだそうで。
知らなかった。
でも日本でこんな法律あったっけ?
既存の法律で対応できるから、いちいち立法はしないのかねえ。
例の中田考なる元大学教授に唆された大学生を、渡航前に逮捕したってのは、
この決議が背景にあったのかな。
最後にマイケル・シンというワシントン中東政策研究所の人の記事も読んだ。
この人が言うには、イスラム国はアメリカがイラクから撤退したことが
イラクの政情不安を招き、イスラム国の台頭を許したと。
アメリカがイラクに作ったのはシーア派の政権で、
シーア派はスンナ派を弾圧していて、
国内外でのスンナ派の支持がイスラム国に集まったらしい。
確かスンナ派って、イスラム教徒の多数派なんだよね。
イラクに新政府を樹立すべきと言ってるけど、
その為にはイスラム国をイラクから排除する必要があるだろうし、
排除には地上戦が必要だろうけど、そこまではやりたくないだろうし、
新政府を樹立してもその政府がまた同じような宗派弾圧をやるなら
同じことの繰り返しになるだけ。
ヨーロッパでは中東への介入は無駄と諦めムードらしいけど、
自分も無意味なんじゃないかなと思う。
オバマは5億ドルの予算を議会に要請したそうだけど、
金だけ出しても解決しないだろうね。
中東の武装組織にイスラム国と戦わせるのかね?
でもその武装組織が今後どうなるのかわからないし。
イスラム国自体がアサド政権打倒の為にそうやって資金提供を受けていたわけで。